目次
使われた人の立場を解決
預金使い込みを回復する手法
- (1)
その際、遺産となるはずの預金であったために、それがあるものとして、遺産分割の対象にならないかというご相談があります。これが可能なら、遺産分割調停で、ほかの遺産とともに一挙に解決します。
しかし、このご相談に対する回答は否です。遺産分割は、現に存在する遺産をどう分けるかの作業で、「現在は《存在しない》」使い込まれた預貯金は、その対象にならないのです。 - (2)
ただ、遺産分割協議(調停)に参加する当事者が、使い込まれた預金の問題もその場で解決しようと合意するなら、それ自体は否定されません。家裁では、その合意に調停期日のおおむね3回を費やしてもまとまらないときには、別手続きで解決してくるよう促します。
- (3)
その別手続きとは、返還請求権は法律的には、「不当利得返還請求権」ないし「不法行為によ害賠償請求権」なので、それは訴訟事項なので、地裁で行うべきです。
具体的方法
預金の使い込みは、その行為が相続開始前(死亡前)か、相続開始後(死亡後)かに分けて考えます。
相続開始前(死亡前)の使い込み
相続開始前(死亡前)に、遺産となるはずの預貯金が推定法定相続人により下ろされていた時。その行為が被相続人(亡くなった方)の意思に反するときには、被相続人(亡くなった方)が、その推定法定相続人に対し、不法行為に基づく損害賠償請求権、あるいは、不当利得返還請求権を持ちます。被相続人が亡くなると、その請求権は可分債権と言って、相続開始(死亡)と同時に「パッ」と分かれる権利なので、それを法定相続人が法定相続分で相続します。それゆえ、法定相続人の一人は、法定相続分で分割された請求権を行使することができるのです。
不法行為による損害賠償請求権
不法行為(故意過失により人の生命身体財産を侵害する行為。たとえば、交通事故などは不法行為)により、損害を被った人が、その損賠の回復を求める請求権
不当利得返還請求権
法律上の原因がないのに(たとえば、被相続人が一人の推定法定相続人に預金を「あげる」といった贈与契約があった時は、法律上の原因があったことになる)、他人の損害によって利得を得た人に対し、その利得を返せという請求権
相続開始後(死亡後)の使い込み
相続開始後は、預金については遺産分割が必要なので、その法定相続分を超えて、下ろした行為は、横領行為と想定され法定相続人は、自分の権利の侵害として、損害賠償請求、不当利得返還請求ができることになります。
回復までの道のり
- (1)
まずは、使途不明金の使途の説明を求めます。
証拠になるように内容証明で、2週間ぐらいの期限を設けて行います。 - (2)
上記(1)に対しては、回答がないか、回答があっても不十分なことが多いです
そのときには、次のステージにすすむべきです。
・弁護士を代理人に立てる(そうすると相手にも代理人が就くことが多く、弁護士同士の協議が可能になります。
・調停を起こす。家裁ないし簡裁で行う話し合いを調停手続きといいます。裁判官が就任する審判官(調停官)と民間人の調停員が構成する調停委員会が、話し合いの行司役を務めます。まとまった内容は調停調書になり、確定判決と同じ効力を持ちます。
・訴訟を起こす。いわゆる裁判です。地方裁判所に起こします。これについては別に解説します。 - (3)
不法行為による損害賠償請求訴訟、不当利得返還請求訴訟
いずれも、契約関係にない者同士の間の請求権です(売買契約上、代金を払えという請求権とは性質が違う)。
訴状に書く事実は、その要件※により若干異なります。おのずと証明方法も異なりますが、実際の訴訟では、どちらをとっても、主張、立証に簡単、困難の違いはありません。
両請求権の一番の違いは、時効です。
不法行為は、その行為と損害を知った時から3年で時効にかかり、不当利得は、返還請求が可能になった時から10年で時効にかかります。 - (4)
以上のように訴状を書いたら、地裁に申し立てます。このとき、訴状と証拠のコピーを提出します。裁判所が訴状を審査し、原告代理人と協議して第一回口頭弁論期日を決め、被告に訴状副本と証拠のコピーと呼び出し状を特別送達します。
第一回口頭弁論には、被告は答弁書を出せば、欠席できます。第一回目の期日は、被告の同意なく決めたので、訴訟を進行させるための民事訴訟法の定めです。
その後、主張立証のやり取りをしたあと、書証では足りない部分を、当事者尋問や証人尋問で調べて、判決がなされます。そのいずれの段階でも、裁判所は和解の勧告ができます。多くは、主張が出そろったとき、と、証拠調べが終わった時です。
和解した時には、和解調書が作られます。これは確定判決と同じ効果があります。 - (5)
和解についてですが、使い込み事案は、親族間の紛争であることが多いため、証拠があまりなく、裁判所としても判決の書きにくい事案です。ですから、和解で解決することが圧倒的に多いです。和解は、以後審理を進めたときの、時間的労力的金銭的コストを軽減できるので、互いに譲歩することが大切です。
やはり親族ですので、被相続人への感謝と一方の立場への思いやりが必要になってきます。 - (6)
被相続人の意思に反して、不法行為だ、不当利得だと言えるために
まず、預金の引き出し状況が、毎日のように限度額を間断なく、何千万円という多額でというときには、不法行為性、不当利得性が認定されやすくなります。
次に、預金引き出し時期が、相続開始前3年以内か、それ以上かでも異なります。ずっと以前のものは、被告も説明しづらく、原告も立証方法が散逸していることが多く、一般的に認定されにくいです。
あとは、被相続人の精神状態。認知症が進んでいるなら、被相続人の意思に反したことは認定されやすいでしょう。または、身体的に劣っていることも、それほどの多額を使えるはずはないということの根拠になります。
なぜ弁護士に依頼する必要があるのか?
1. 返還請求額を適正に計算できますか。
預金の引出の履歴の中で、どれが使い込みと見て返還請求が可能か、合理性を持たせないと相手に納得してもらえません。その計算は経験のある弁護士に委ねると合理的な範囲に収められます。
2. 和解交渉を自分で出来ますか。
訴訟を経ない任意の返還請求交渉の場面でも、弁護士という代理人が就くことで、相手も弁護士を依頼しやすく、あとは弁護士同士の折衝になりますので、比較的和解交渉が短期間で済みます。当事者同士では、親族だからという甘えもあって、期限を設けても守られない傾向があります。
3. 訴状を自分で書けますか。
訴状には、要件事実と言って、必要最低限書くべき事項が定められています。これは、司法修習を経た弁護士でないと困難です。
4.訴訟で適正な時期に、適正な和解が出来ますか。
返還請求訴訟では、多くの場合、和解で解決することが多いです。判決が出たときの内容の見通し、判決をもらった後の対応など適正に知ることが出来なければ、判決でなく和解で解決するするメリットを判断できません。
弁護士に依頼するとお金が高いという声を聞きますが、不利な判決をもらったり、判決はもらったものの相手が払ってくれない、控訴されたなど、結局現実にお金が返ってこない事態を想定すると、コストとして妥当と思われると思います。まずは、お見積もりを見てください。