目次
- 1 使ってしまった人の相談
- 2 使われた人の相談
- 2.0.1 Gさんのケース(原告案件、被相続人の能力が低かったことを証明して有利な結果を得た)
- 2.0.2 Hさんのケース(原告案件、引出に関与していないという答弁に伴う危険)
- 2.0.3 Iさんのケース(原告案件、引出額が極端に多額なケース)
- 2.0.4 Jさんのケース(原告案件、介護認定記録「金銭の管理」が「全介助」)
- 2.0.5 Kさんのケース(原告案件、家裁での遺産分割調停が先行していたケース)
- 2.0.6 Fさんのケース(介護認定記録を子細に検討)
- 2.0.7 Gさんのケース(家裁での調停が先行していて、その時の兄の言い分を持ち出して主張を展開)
- 2.0.8 Hさんのケース(地裁で少額しか認められなかったが控訴して2倍の額の返還が認められた事例)
- 2.0.9 Iさんのケース(下ろしたお金は贈与されたと被告が主張した事例)
- 2.0.10 Kさんのケース(引き出しがお金は父に渡したとという答弁がなされた事例)
- 3 遺産分割しないとならない不動産等もあるとき
使ってしまった人の相談
Aさんのケース(被告案件、一部引出を否定し、一部使途を説明した事案)
Aさんは三姉妹でしたが、Aさんだけ独身で、遠くに嫁いだ姉と近県に住む妹がいました。Aさんは母とごく近くに住んで交流をしていました。だんだんと体と心の弱った母を見かねたAさんは、10年ほど前から実家を訪ねる頻度も多くなっていました。
母は、最初の5年くらいは、比較的元気で、自分のことは自分で行っていましたが、だんだんと、身の回りのこと、炊事洗濯、銀行回りなどが出来なくなり、Aさんが介助していました。
母が亡くなり、姉から、母が亡くなる前10年間の預貯金の不正利用を指摘されました。姉の指摘する不正利用の総額は1億円を超えていて、Aさんも金額の大きさに驚きました。
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姉の指摘する引き出しは10年間で1億円超えで、Aさんには最後の5年間くらいは記憶にあるものの、それ以前はAさんが引き出したか、母が引き出したか、たまに来る妹が引き出したかAさんにも今となっては不明でした。
姉は、銀行の出し入れの履歴を証拠にAさんに返還を求めてきました。
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Aさんの初動
Aさんに記憶がある5年より前5年間の引き出し(つまり亡くなる5年より前の引出はAさんの関与を否定しました。Aさんにとって、引き出しのいくつかはAさんが行ったとも思えたのですが、母が比較的元気で母自身の引き出しも否定できない以上、そのように答弁することに決めました。
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姉が地方裁判所に提訴
Aさんは最初の方針通り、5年より前5年間の引き出しに関与したことは否認、過去5年間の引き出しは母が弱ってきて、自分に託されたとして使途を説明しました。
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裁判所が、5年より前5年間の引き出しは、Aさんが関与した証拠がなく、Aさんの不当利得とは言えない、過去5年分のみ使途の説明を吟味するが、証拠のない引き出しも、日々の生活費は控除されるし、定期性のある医療費や介護費などは、いちいちが証拠がなくても、適正な使途として認定する方向であるとして、Aさんの使途不明金は1000万円とする心証を開示し、姉に400万円返還するという和解案を提示しました(注:母→Aさんへの不当利得返還請求権があったという認定で、それを法定相続分1/2を有する姉が500万円の限度で相続したとの裁判所の認定で、和解であるので400万円に減額してもらって和解すると提示。姉も今後の訴訟費用と時間を考えると地裁の段階で和解した方が得策と判断した模様。)。
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Aさんは結果、和解しましたが、姉が強行で、判決に至っても、裁判官が一度示した心証から乖離した判決はあまり出ない傾向です。
Bさんのケース(被告案件、引き出しに関与していないと主張)
Bさんは二人兄弟で兄がいます。Bさんは、多少認知症の気配のある父に銀行へ一緒に行ってくれと頼まれました。およそ5年前のことで、その後父は死亡しました。すると、兄から、そのとき銀行で父の口座から500万円が引き出された記録がある、その内300万円はBさんの子、bの口座に送金されていたとして、子bとともに、兄から不法行為として返還を求められました(兄が起こした訴訟でのBさんへの請求は、ほかの引き出しも含めて、Bさんが上記500万円も含む合計5000万円を引き出し利得したからと、兄の法定相続分1/2に当たる2500万円であった。)。
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Bさんは、現場に立ち会ったものの、bに送金されたことは当時現認していなく、後で知ったと言っています。
訴訟では、Bさんの記憶通り、Bさんは立ち会っただけで、引き出し、送金は父が行った、あとでbに送金されたことを知り、bはあとで父から孫への贈与だと説明されたと答弁しました。
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裁判所は、当時の父の能力からは、引き出したり送金する能力はあったと認定、bが当時司法試験を受けていて、父からの応援の意味だったと説明したのもあり得る話であるとして、300万円については、bへの贈与だと認定すると心証を開示しました。
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兄はそれを受け入れず判決に至りましたが、300万円の部分については、bへの贈与と認定され、返還を免れました(裁判所はほかの引き出しに関してもBさんが使途を説明したことから、その使途およそ2000万円分は相当であるとして不当利得ではないと判断しました。)。
Cさんのケース(被告案件、貸し金の回収との答弁は危険!?)
Cさんは弟から父の存命中、各100万円ずつ5回の引き出しは、Cさんが行ったとして、返還を求められました。
父の当時の能力、身体的に銀行に一人では行けない、と言う状況では、父の近所に住んで父の援助をしていたCさんが関与していないとは不自然だということで、Cさんは関与自体は認めました。
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Cさんが言うには、それより前に父に貸していた500万円を返してもらったと言います。しかし、貸金と主張すると、Cさんと父との間の返還の合意、Cさんから父への金銭の移転を別に証明しないとならなくなります。むしろ、それは、父へのそれより以前の援助を背景とする贈与、つまり、Cさんの献身的な援助へのお礼ではないかと代理人として評価すると説明し、そのとおり答弁しました。
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結果として、裁判所も、Cさんの父への援助の背景は認められるとして、贈与もありうると心証を開示し、Cさんが若干額を返還する勝訴的和解で決着しました。
Dさんのケース(被告案件、一回の多額の贈与と主張)
Dさんは、母の晩年、母から「私の通帳を管理して、私の面倒を看てほしい、私が死亡して余った預金はあなたに上げるから」と言われ、献身的に母の介護、口座の管理援助を行っていました。 Dさんは、母の財産管理に母の通帳の記録と、現金出納帳を付けていて、おおむね、的確に財産管理を行っていました。 母が死亡し、預金が500万円ほど残っていたので、Dさんは、母のキャッシュカードを使って母の死後500万円を引き出しました。
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姉が母の口座の履歴を取り、母の存命中の財産管理の不正と、母の死亡後の引き出しについて問題視し、Dさん相手に不当利得返還請求訴訟を提起しました。
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裁判所は、Dさんの通帳への書き込みと現金出納帳の記録で、おおむねその引き出しに不正はないと心証を開示しました。また、母が存命中、遺言の要式は備えていなかったものの、Dさんへの感謝と残ったお金はDさんにあげたいという手記を残していたので、Dさんへの贈与もありうるとし、Dさん勝訴的和解を薦め、結果Dさんは姉に100万円を姉に支払う和解に応じました。
Eさんのケース(被告案件、贈与と委任による管理の複合的な主張)
Eさんは、母が死亡し残された一人暮らしの父の介護のため、毎日父宅に通って父の面倒を看ていました。父からは、預金の管理を頼むと言うことと、最晩年に至っては、それまでに父の介護に使った自家用車を購入した資金、父の介護のため父宅をリフォームした資金をEさんが立て替え負担していましたが、それも最後に精算しなさいと言われことで、①小口現金として1000万円を引き出し、②最後に父の預金から貯めたお金1000万円を精算してもらいました。
弟が、父の死亡後、Eさんが父の預金から多額を引き出していたとして、不当利得返還請求の訴えを提起しました。
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裁判では、Eさんは、①父の介護のための小口現金帳を付けていたので、それを証拠として提出し、日々のやりくりに違法性はないと主張しました。②最晩年に精算した1000万円については、後から大きな自家用車とか、リフォーム費用とかの出費を精算したと主張しました。
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和解できず判決になりました。判決では、Eさんの小口現金の使途については、すべてに証拠はないけれど、全てについて些細な証拠による裏付けを求めたのでは、立証責任を転換することになるので、ある程度使途の説明があれば、不当利得はないとの判断を得ました。
一方、後から精算した分は、精算したと言う年月日までなぜ精算しなかったのか説明がなく、また、Eさんがそのことを訴訟がある程度進行した段階で主張をしたことで、合理性がないとして、それはEさんの不当利得と見なされました。
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結果、Eさんに500万円(Eさんと弟の相続分割合1/2を乗じた額)の支払い義務を認める判決が出た。
Fさんのケース(被告案件、裁判所が被告の立証の程度に言及した事案)
Fさんは、車で1時間程度の場所にある母の面倒を看るため、毎週母の元の通っていました。 母は父存命中は預金等の管理は父任せで、父が死亡した後は、Fさん任せになっていました。 母が亡くなり、母の預金からの出金について、兄が問題視し、Fさん相手に不当利得返還請求訴訟を提起してきました。
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Fさんは、母の介護の記録を手書きで付けていて、それも証拠で提出しました。ただ、記録は、整然と記されているものでなく、Fさんのメモ書き程度の体裁でした。
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一審はほぼ兄の主張を認める判決を出しました。Fさんは控訴しました。
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控訴審は、原告は、銀行の取引履歴で、正確に銀行からの出し入れの事実を捕捉できる一方、元来立証責任を負っていない被告にだけ正確な使途の説明を求めるのは、立証責任を転換したに等しく、被告に取って酷であるとして、メモ書きを整理して主張をし直すようFさんに求めました。
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結果として、高裁では、Fさんが一審判決の半額を兄に返還するという内容の判決が出ました。 Fさんとしても、メモ書きであることで証拠として価値がないと早く判断したことが敗因でした。もっと、主張立証に貪欲になるべきでした。
使われた人の相談
Gさんのケース(原告案件、被相続人の能力が低かったことを証明して有利な結果を得た)
Gさんの母は3年ほど前認知症が重篤で、施設に入所しました。その前後から兄が母の面倒を看ると言い、母の預金通帳を管理していました。母が亡くなって、口座を調べてみると、母の施設費等支払うには過大な引き出しが散見されました。その総額は3000万円でした。Gさんは兄の使い込みを疑い、母が兄に対して持った不法行為による損害賠償請求3000万円請求のうち1500万円請求を母から相続したとして返還を求めました。
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兄は、母から預金管理の委任を受けた、その委任の範囲内の引き出しだと主張しました。それでも施設費やその他の生活費を持ってしても余りある引き出しでした。
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Gさんが、母の介護認定資料を取ってみると、母は5年前に要介護4、3年前には要介護5でした。認知症高齢者の認知度もⅡaからⅣへ推移していました。Gさんはここを立証して、母には委任の能力がなかったと主張しました。
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裁判所は、母の能力が限定的でも、委任か事務管理により兄は母の預金を管理していたと見える。そこで、兄の使途説明で合理的な部分は適正な使途として返還は要しないとするべきと心証を開示しました。
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そこで、時効のかからない過去3年分について、母のための使途から過大な部分の返還を認め、Gさんは300万円の返還が認められました。
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このように、使途の説明に合理性があれば、返還義務を免れる傾向にあります。質的にその傾向を止めるには?!→個別にご相談ください。
Hさんのケース(原告案件、引出に関与していないという答弁に伴う危険)
Hさんは、亡くなった父の預金が10年間に亘って約1億円引き出されたことを知り、父の介護をしていた妹に問いただしました。妹は、知らないの一点張り。Hさんは、父の預金の履歴を取り、窓口で行われた引き出しについては、引き出し伝票の写しを取って見ました。すると明らかな妹の筆跡が散見されました。
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まず、Hさんは、引き出した銀行の支店に着目しました。年老いた父が一人で引き出しには行けない距離の支店です。また、引き出し伝票の写しからは、妹の筆跡が確認できました。それを妹に突きつけて回答を求めました。結局、訴訟に至りましたが、妹の答弁は変わりません。
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裁判所が、被告はいろいろ言うが、要介護の人の約1億円のお金が消えていることになる。その子どもである原被告が何も知らないと言うのは不自然だ。その間の原被告の父の生活への関与の程度を主張しなさいとしました。
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Hさんは遠方にいて、父の生活に関わることはなかったと主張しました。一方被告は、それでも「知らない」と主張するにとどまりました。
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裁判所は、被告は介護を行っただけでなく、ほぼ同居で、父の預金の推移についてなにも知らないとするのは不自然で、被告が虚偽を述べているからとして、妹の引き出しへの関与を認めて、Hさんに金銭の返還を命ずる判決が出ました。
Iさんのケース(原告案件、引出額が極端に多額なケース)
Iさんの母は、成人してからほとんど働かない兄と同居していました。母が弱ってきたので、Iさんは、母の介護を申し入れましたが、兄がこれを拒絶し、以後、Iさんは母に面会もできないでいて、それから3年後に母は亡くなりました。
Iさんが母の口座の履歴を取ると、4つの金融機関からそれぞれ毎日のように50万円ずつ、合計3億円が引き出されていました。
Iさんは兄を相手に不当利得返還請求の訴えを提起しました。
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兄は、引き出したお金は母からの贈与だったと主張しましたが、余りの金額の多さに裁判所も納得しません。これは返還するべきだが、問題はその額であると言いました。
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Iさんは兄が生前贈与されていた不動産に着目し、その不動産を代物弁済してくれれば、それでその余の請求は放棄すると提案しました。
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この解決策の最も良い点は、兄の返還額に対する合意を省略できる点です。裁判所もこのIさんの解決策が良い案だと言い、当事者に勧めました。
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結果、Iさんは不動産の代物弁済を受け、結果これを第三者に売約して利益を得ました。
Jさんのケース(原告案件、介護認定記録「金銭の管理」が「全介助」)
Jさんには兄がいて、父の生前父と同居していたのですが、父の預金口座から毎月20万円の引出しがありました。
父が亡くなり、Jさんは、父の預金(年金口座)が兄家族の生活費になっていたと疑いました。
Jさんは、父は、デイサービスに出かける以外は、特段の活動もなく、毎月20万円も要らなかったと考えました。
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Jさんは、不当利得返還請求として兄を提訴しました。
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兄は、引き出しは父が行い、特に死亡する間際は自分が引出しを行ったこともあったが、それは限定的であると答弁しました。
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父の介護認定記録を取ると、「金銭の管理」欄に、「長男が管理、本人は少額も管理していない」と記載がありました。すると、兄は、確かに引き出し行為を手伝うことはあったと微妙に答弁を変えてきました。
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Jさんは、訴訟のやり方を修正して訴えの変更をしたうえで、一定額を回収することができました。
→どのような方法を使ったかは個別にお問い合わせください。
Kさんのケース(原告案件、家裁での遺産分割調停が先行していたケース)
Kさんは、兄と先に遺産分割調停を行っていて調停は成立しましたが、調停委員に使途不明金は地裁で行うように言われたとして、地裁で返還請求を行いたいと相談してきました。
遺産分割調停調書の最後に清算条項があると提訴は困難ですが、それがなかったために、地裁へ不当利得返還請求訴訟を提起しました。
注)例えば母の遺産分割調停で清算条項があるが、父の預金の使い込みは関係しないと主張される方もいますが、清算されるかはケースバイケースです。個別にお問い合わせください。
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兄は、地裁ではすべての引出しは父自身が行っていたと答弁しました。しかし、一方、兄は家裁では父を介護したとして、寄与分を主張していました兄の主張は、家裁の遺産分割調停では、父の日々の現預金の管理を含む生活全般の介助を行っていたと言っていたのを、地裁の不当利得返還では、父が父自身の預貯金の管理をしていたと言うという具合に変遷していて、裁判所は、介護されていた父が自分で引き出すことなどできないし、介護認定記録もよく読んで見ると、父の要介護を裏付ける事実が判明したことで、kさんが父の預貯金の管理をしていたというのが真実であろうとして、兄に合理的な説明を求めました。
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結局、兄の言い分の変遷に合理的な説明がされないので、兄も一定の譲歩をして、一定額の返還を認める和解が成立しました。
遺産分割しないとならない不動産等もあるとき
Lさんのケース(地裁で遺産分割まで行った事例)
Lさんは、兄が父の預金を使い込んだと疑い、地裁に不当利得返還請求の訴えを提起しました。兄は、引出しを認め使途を説明しましたが、使い込みの態様が、毎週のように限度額50万円いっぱいに引き出していたので、説明のつかない過大な引出しだと認定されました。
結果、兄がLさんに500万円を返還するという内容で和解の話が進みました。
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一方で亡父には地方に不動産があって、これはほとんど市場価値のない不動産だったのですが、Lさんと兄との間でどちらが取得するのかの紛争もありました。
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結果、兄が不動産を取得するが、これは実質マイナスの資産(固定採算税や管理費用がかかるが、売れない物件)なので、そのマイナスを補填する意味で、Lさんが、兄に100万円を支払って兄に不動産を取得してもらうという解決になりました。
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和解調書では、兄に400万円の支払義務を認め、Lさんに支払う。Lさんと兄は別添の遺産分割協議書のとおり、遺産分割をしたことを確認するという定め方をしました。 地裁では遺産分割ができないので、和解調書の中で、遺産分割条項を入れることはできません。このように和解条項を定めるのが一般的です。